計測社:ロンコムTOUCHプロジェクト

世界市場の開拓者として、かつてない装置をつくりだす。

精密計測機器を未開拓の新興国に広げていく。その壮大な計画の牽引役として開発されたのが「ロンコム TOUCH」だ。精密な動作、低コスト、かつてない機能―高度な要求にもかかわらず、与えられた開発期間はわずか5か月という短いものだった……。

PROJECT MEMBER

  • 久郷 丈博

    計測社 技術部門 SFGグループ
    1993年入社/工学研究科
    知能機械工学専攻

  • 山口 和也

    計測社 技術部門 SFGグループ
    2006年入社/工学部
    情報工学科

  • 関本 倫裕

    計測社 技術部門 SFGグループ
    2009年入社/バイオニクス学部
    バイオニクス学科

失敗は許されない。そこに、覚悟はあるか。

新興国に、高精度な精密計測機器を広げていく―。2012年春、東京精密で世界市場開拓に向けて一つのプロジェクトが発足した。同社の製品拡大に向けた「きっかけ」をつくろうと、真円度測定機の「ロンコム TOUCH」を開発することになったのだ。機能を限定したエントリークラスの製品とはいえ、世界市場を切り拓く重要な役割を担うものになる。高精度であることはもちろん、「ローコスト」「小型・軽量化」「かつてない新機能」という難解な要求が挙げられた。このプロジェクトのリーダーを務めた久郷は、当時の心境をこう話す。

久郷「今までにない装置をということで、非常に難解なプロジェクトだと感じていました。さらに5か月後に開催される展示会に間に合わせる必要もあったため、開発期間も過去例のない短さでした。正直、不安もありましたが、『やらなければいけない』という覚悟を持ってこのプロジェクトに臨みました」

開発チームが発足。機械設計エンジニアに山口、電気回路設計エンジニアには関本が任命され、ソフトウエア開発エンジニアは久郷自らが担当することに。協議の結果、装置には「コラム移動方式」と「タブレットPCを使って操作できる」という画期的な機能を備えることに決定した。

山口「装置のかたちをつくることが私の役割。特許を出願していた『コラム移動方式』を取り入れるということで、完成のイメージが持てない状況でしたが、これが実現できれば面白いことになると感じました。とにかくやるしかない。そう覚悟を決めました」

関本「無線通信を使って装置を動かすことは、例のないことでした。不安も感じていましたが、構想からものづくりに携われることは大きな喜び。絶対に成し遂げてみせると意気込んでいました」

未知の挑戦への不安と期待。そして、会社の道を切り拓く失敗できないプロジェクト。三人は一様に覚悟を決めて、開発をスタートした。

いつしか、重圧は高揚感へと変わる。

装置の開発は、設計、製作、評価という三つのフェーズで構成される。今回の要求である「ローコスト」「小型・軽量化」「かつてない新機能」を実現するために、もっとも苦心するのが設計のフェーズだ。装置全体の機構を担当した山口は、今までにない装置を生み出すために、アイデアを振り絞って設計に臨んでいた。

山口「『コラム移動方式』は他の装置にはないものですし、小型・軽量化するにはそもそもの構造をゼロからつくっていかなくてはいけません。ですから、前例にとらわれない自由な発想で設計することを心がけました」

多くの要求を満たすために求められた創造性。この設計作業は、機械エンジニアにとって大きな喜びを感じさせるものだった。一方、装置の電気回路を担当した関本は別の課題に向き合い、苦心していたという。

関本「低コストを実現するには、部品を極力、少なくするしかない。一つの部品で二つの機能を持たせるなど、試行錯誤を繰り返していました。また、これまでの開発案件では個々のパーツを担当したことはあっても、電気回路全体の設計をしたことは初めての経験でした。回路や部品の組み合わせによって、精度が変わるため、とても苦労したことを覚えています。先輩のアドバイスを受けながら、何とかかたちにできたことは自分にとって大きな財産になりました」

こうして二人がつくりあげた機構と動き。それを制御するソフトウエアを担当した久郷は、「タブレットPC」で操作するという機能をどう実現していくかに苦労したと話す。

久郷「この製品にどのような機能が必要なのか、コストと見合わせてどこまでの機能を持たせられるのか。その線引きは大きな悩みでした。お客さまが使いやすいように、そして設計を最大限に活かすために、よりよいものをつくりたかったんです」

メンバーたちの強い思いによって、すべての条件を満たしたプロトタイプが完成する。「すばらしい出来になった。プロジェクトが進むにつれて、重圧が高揚感に変わっていった」と久郷が話すように、その装置のクオリティーは、周囲でも大きな話題を呼んでいくことになる。

その装置は、技術者の魂に火をつけた。

「すばらしい出来」に仕上がった「ロンコム TOUCH」だが、そこで完成とはならなかった。社長・役員・技術責任者らのレビューにおいて、細かい追加要求が多く寄せられたのだ。決して不完全だったわけではない。出てきた要望は「もっとこうすればよくなるのでは?」「デザインにも徹底的にこだわろう!」という装置をブラッシュアップするためのもの。装置のすばらしさが「よりよいものをつくる」という技術者の魂に火をつけたのだった。山口は当時のことをこう振り返る。

山口「設計当初は自由な発想が求められましたが、すでに完成しているものを改良していく場合は制限の中で何ができるのかという発想が重要になる。なるべく機構を変えずに、追加の要求を満たしていく作業は、正直、苦しい部分もありました。でも、その苦労に見合うだけのものを実現できたと自負しています」

完成した装置は展示会におかれ、省スペースと使いやすさを実現する「コラム移動方式」と省コスト・スペースに寄与する「タブレットPCによる操作機能」を備えた製品は、高い評価を得られたそうだ。メンバーの三人もイベントでは顧客をアテンドし、直に声を聞くことができた。

関本「実際に『今、うちが使っている他社の製品よりも優れているね』というお客さまの声にすべてが報われた気がした。自分にとっても大きな自信につながりました」

開発の成功と顧客の高評価を受けて、「ロンコムTOUCH」は世界市場に向けて販売され、東京精密の世界展開を支える一つの力となっている。このプロジェクトを通じて得られたもの。そして見えてきたものは何だったのか。メンバーに聞いた。

山口「過去にないものを、自らの手でつくれたことは自信になった。自分の可能性が大きく広がったプロジェクトだったと思います」

関本「今回の経験を活かして、今後はもっとハイグレードな装置にチャレンジし、世界一の製品をつくっていきたいですね」

久郷「『ロンコムTOUCH』に使われた新たな機能を他の装置にも活用すること。そして、この装置をアップグレードし、世界に広めていくこと。まだまだやるべきことはたくさんあります。単なるローエンド機の開発ではなく、今後につながる可能性や希望をつくることができたと思っています」

彼らが技術と魂で切り拓いた道は、未来へとつながっていくはずだ。